『SUMU INUYAMA』プロジェクトの裏側

※取材当時の情報を記載(2018年12月時点)

名古屋鉄道と、住宅リノベーションを手がけるエイトデザインが手を組み、犬山駅の上に建つマンション物件のバリューアップが行われました。鉄道会社と住宅リノベーションという異色のコラボレーション。そのキーパーソンたちが舞台裏を語ります。

Mizuki.K

名古屋鉄道 不動産事業本部
開発部 企画課 チーフ

Yuki.Y

名古屋鉄道 不動産事業本部
開発部 企画課 サブチーフ

Taichi.I

エイトデザイン株式会社
常務取締役

「名古屋鉄道を変えていく!」
この決意が原動力に。

名古屋鉄道が所有する不動産の中には賃貸物件も数多く含まれます。全物件が高い利用率であることが理想的ではありますが、やはり低利用物件が存在するのも事実です。

「低利用物件をなんとかしたい」と、不動産事業部としても常々考えていました。そこで新たな取り組みとして、リノベーションによる低利用物件の有効活用と、資産価値の向上の検討が本格的に始まったんですよね。

近年、関東エリアでは、鉄道会社が住宅リノベーション会社と手を組んで、街に新しい価値をつくり出すコラボレーション事業がスタンダードになっています。一方、私の所属する開発部では「名古屋鉄道を変えていく!」というムードが漂っており、こうしたコラボレーション事業に対してもとても前向きでした。

当初は大手をはじめ、いろいろな住宅リノベーション会社をリサーチしていましたね。組む会社を絞り込んでいく検討作業はなかなか大変で・・・。

当社を選んでいただけたことは、とても光栄です。

エイトデザインさんは、名古屋で住宅リノベーションを専門的に設計する会社としては先駆け。まずは豊富な実績に安心感が持てました。

手がけられた物件はどれも魅力的で、当社の不動産に新しいイメージを与えてくれるに違いないと確信しました。まさに「名古屋鉄道を変えていく!」という私たちの思いを実現できると感じたんです。

当社はずっとこの地域に根ざして、地域の発展に努めてきました。これについてはエイトデザインさんも同様です。志が同じなら、いい仕事ができると思いました。

当社の実績やデザインに好感を持ってくださったことが素直にうれしかったのはもちろん、Mizuki.Kさんがおっしゃった、「名古屋鉄道を変えていく」というチャレンジングな姿勢に私たちも感銘を受け、ぜひご一緒したいと決意を固めたんです。

実はもう1点、エイトデザインさんに決めた理由がありまして。名古屋鉄道としては、コラボレーションさせていただく企業さまを全力で支援し、成長してもらいたいという思いを持っていました。ただそこには、成長性を感じさせてもらえるものが必要。その点においてエイトデザインさんは、住宅だけでなく店舗やオフィスのリノベーションも行っており、リノベーションの領域を拡大しています。

エイトデザインさんは飲食店も始めるなど、「おっ!」と思わせるアクションも起こしています。まさに成長路線を歩んでいる企業ですから、当社としても支援のしがいがあると考えました。

街づくりに必要なのは長期的な視点。
時間をかけて発展に寄り添う。

今回の犬山のプロジェクトでは、当社が企画提案から設計・施工・テナントリーシングまでを担当させていただきました。率直に伺いますが、私たちの企画はいかがでしたか?

とても良い内容だと思いました。当社は数ある事業を通じて街を発展させたいと考えている企業であり、当然その難しさは理解しているつもりです。街って、駅や店やマンションをつくったからすぐに盛り上がるわけではありませんよね。種をまいてから花が咲くまでを見守るのと同じで、時間をかけて育てていくもの。企画のご提案をいただいたとき私は、「エイトデザインさんも、長期的な観点から犬山を育てようと覚悟を決めている」と感じました。

犬山という街は、観光客の誘致に成功しているものの、そこに住む若い人が流出しているという一面も持ち合わせています。そんな状況の中で、突飛なアクションを仕掛けても良い結果は得られません。そこでまずは犬山に住む人を増やしていくことから始めるべきだと考えたんです。

コンセプトも「SUMU INUYAMA」という、実にストレートなネーミングに仕上がりました。近年の不動産事業は、ひと昔前のように、新しい施設や建物をつくれば簡単に人が集まってくるようなことはありません。明確なコンセプトを設計し、ターゲット目線を大切にして、「行ってみたい、使ってみたい、住んでみたい」と心から思っていただけるような工夫がなければ、支持は得られません。また、デザインや設計でも「さすが」と思えるアイデアを取り入れてくださったので、ワクワクしました。

当社としては、今まで自分たちでは思いつかなかったようなアイデアに期待していましたが、見事にそれを上回ってくださり、感謝しています。

とにかく自由にやらせていただけたので、こちらも感謝しています。

「SUMU INUYAMA」の舞台となった「エスタシオン犬山」は、犬山駅の上に建てられた築20年以上の賃貸マンションです。ワンルーム14室とテナント部分をリノベーションしていただきました。

3階をファミリー向けの「0to6 APR」、8階を女性専用の「G-BASE」というようにフロアごとにターゲットを設定し、ライフスタイルの異なる人たちにピンポイントで訴求できるのは面白いと思いました。

「0to6 APR」は、もともと学習塾だった空間を使って、0歳から6歳の子どもを持つ世帯をターゲットに7室を展開しています。居室にキッズスペースやベビーカー置き場があったり、駅のホームをイメージして通路をデザインするなど、こだわりがたくさん詰まっていますよね。

キッズスペースは共用部にもあって、そこが電車をテーマにした空間になっているのもグッドアイデアでした。

「G-BASE」も「0to6 APR」同様、こだわらせていただきました。当社の女性デザイナーが、女性の「大好き!」を考え抜いてデザインしています。

ファッション・料理・読書・音楽など、それぞれの趣味に合わせたタイプ別の部屋を考えていただきましたね。それに、全タイプ共通の広い洗面台ではメイクを存分に楽しんでもらえるでしょう。

本当に自由に仕事をさせていただけたことで、より良いリノベーションが実現できました。

デザインによる不動産のバリューアップについては、エイトデザインさんの腕の見せどころです。だから当社としては、エイトデザインさんが持てる力をすべて出し切れるよう、ある意味ではサポートにまわることも必要だと感じました。当社の思いだけを押しつけるようなことはしたくありませんでしたし、お互いフラットな関係を意識しながら意見を言い合えるようにも努めたつもりです。

コラボレーションの意味は「協力して物事を進める」ですからね。心を通わせないと目的は達成できませんよね。

街づくりの先にあるのは、その街に根づく文化の創造。

「0to6 APR」については、WebによるPRも当社に任せていただいていましたが、入居希望者を広く募ることが必要だと感じていました。

そこで私たちは、グループ会社の名鉄コミュニティライフに協力を依頼し、販促活動の強化に踏み切りました。

これも「0to6 APR」での話になりますが、同じくグループ会社の名鉄協商さんに入居者用の駐車スペースをコインパークの一角に設けていただいて、割安の駐車場代を設定できるようになったのも、入居希望者の意欲を高めることにつながりました。

愛知県はクルマ社会ですからね。駅の真上に建つ物件でも、ファミリーとなればマイカーは必須。となると入居希望のみなさんは、賃料だけでなく駐車場代も考慮したうえで、毎月のコストをシビアに考えます。

販促や駐車場の課題を解決できたのは、名古屋鉄道グループというスケールメリットを上手く活かしていただけたおかげです。とても助かりました。結果的に全室ご契約にこぎ着けられたので、本当にホッとしています。

私たちは、このコラボレーションを単発企画として終わらせたくありませんでした。次につなげていくためにも、協力によってベストな結果が得られることを示さなければならない。そんな意志を持って臨んでいましたからね。

おかげさまでエイトデザインとしても大きな成功事例をつくることができ、その後、資本業務提携のお話までいただきました。これからは、名鉄グループのエイトデザインとして犬山のような事例を生み出していきたいですね。

そうですね。「名鉄瀬戸線尼ケ坂〜清水駅間の高架下開発プロジェクト」もそのひとつですよね。2回目のコラボレーションにあたる案件ですが、打ち合わせによって練り上げたプランが街にどう受け入れられていくのかとても楽しみです。

高架下開発だけでなく、様々な街づくりによって人々の賑わいや新しいライフスタイルを生み出せるように、ひとつひとつを単なる開発案件とは捉えないようにしています。その場所を行き交う人たちに影響を与え続けることができれば、いつかはその街の「文化」を生むことになると思いますからね。

「名鉄沿線に新たな文化をつくっていく」。これが現時点での私たちの目標ですね。

「地域を盛り上げたい」という名古屋鉄道さんの思いの強さを改めて感じます。今日の対談は、とても有意義な場でした。本当にありがとうございます。

こちらこそ、ありがとうございました。

ではTaichi.Iさん、さっそく仕事の話に切り替えたいんですが・・・。

(笑)

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