『犬山キャンペーン』町歩き談義

※取材当時の情報を記載(2016年11月時点)

愛知県犬山市は、中部エリア有数の観光地として息を吹き返した。
これは、名古屋鉄道と犬山市が連携して『犬山キャンペーン』という大きなプロジェクトを発足させ、成功へと導いた結果。
現在キャンペーンに深く関わる2名の社員と犬山市の担当者に、
ここに至るまでのプロセスと、今後の展開について熱く語ってもらった。

Yusuke.M

名古屋鉄道 グループ統括本部
事業推進部 宣伝担当

Motoki.K

名古屋鉄道 鉄道事業本部
営業部 営業推進課

Masashi.G

一般社団法人 犬山市観光協会

10周年を迎えた
地域連携キャンペーン。

2007年の春から始まった『犬山キャンペーン』は、名古屋鉄道と犬山市・観光協会、そして地域の人々が協力し合い、観光客を誘致して地域活性化につなげる目的で立ち上がったプロジェクト。毎年春・夏・秋(夏は2011年から)に実施され、2017年で10周年を迎えた。
『犬山キャンペーン』は、2006年に「ハートレイン」という宣伝型のキャンペーンを名古屋鉄道が立ち上げたことに端を発する。「ハートレイン」で一定の効果を得たことで、名古屋鉄道は犬山市のポテンシャルの高さを改めて理解した。そこで、鉄道会社主導のキャンペーンではなく、もっと地域を巻き込み、町おこし型の大きなプロジェクトとして展開する考えに至った。

「互いが協力することで、単独で観光誘致を行うよりも大きな効果が得られるはずだと、確かな自信が私たちにはありました。だからこそ、立ち上げ当時のメンバーは大きな一歩を踏み出せたんだと思います。」こう話すのは、事業推進部で宣伝担当を務めるYusuke.M。Yusuke.Mは、2012年7月に同部署に異動となり、犬山にレジャー施設を運営する名鉄インプレス出向時代と合わせれば、約9年間も犬山市と関わっている。

「私が『犬山キャンペーン』を任された時は、立ち上げから5年が経過していたので、ある程度効果が現れ、犬山の町も活気を帯び始めていました。」
現在、犬山城から続く城下町一帯は電線が地中化され、古き良き時代の町並みも形成されており、週末は町歩きを楽しむ人で賑わっている。観光地としてのあるべき姿が確立される段階に到達したと言っても過言ではない。ただ、それまでの時代を知る犬山市観光協会のMasashi.Gは、「かつては寂しい町だった」と振り返る。
「週末になっても人通りは少なく、店も今のように数がありませんでした。観光協会としても『なんとかしなければ』という危機感でいっぱい。そんな時に名古屋鉄道さんからご提案があり、大きく舵を切ることにしたんです。」

『犬山キャンペーン』は、名古屋鉄道と地域全体が一体となって動くことで成立する。観光協会と固い握手を交わすまでに、名古屋鉄道の当時の担当者は何度も観光協会に足を運び、協働で取り組むことの重要性を説いた。それを受けMasashi.Gは、犬山市として本腰を入れるよう働きかけるとともに、店の経営者たちから理解と賛同を得るため、店を一軒一軒回って、危機的な現状を乗り越えるための必要性を必死に訴えた。
「キャンペーン参加店は、貸し着物プランや書道体験を打ち出すなど、犬山を訪れる方々が、犬山城だけでなく、城下町全体を楽しめるような企画を考えてくれました」とMasashi.G。当初、協力店は40店ほどだったが、今では100店を超え、店主自らがキャンペーンへの参加を名乗り出るほどだ。「地元がキャンペーンに期待を寄せてくれている証拠です」と、Yusuke.Mは笑みをこぼした。

成功のカギは、
それぞれのミッションを
最大限に全うすること。

『犬山キャンペーン』成功の裏側には、立役者となってくれた地元の人々の協力以外にも、大きな要因がある。それは、それぞれが任務を最大限に全うしてきたことである。犬山市はハード面の整備を行い、観光協会は地域との連携と魅力アップを担当。そして名古屋鉄道は、プロモーションと送客に尽力してきた。
観光協会が立てた企画に対して、どの広告媒体を使い、どのような見せ方で宣伝を行うかを考え、実行するのがYusuke.Mの任務だ。

「練り上げられた企画の魅力を伝え、お客さま数のアップにつなげることが私たちの任務です。すでにキャンペーンが定着してきたタイミングで着任したので、キャンペーンを一段と盛り上げるために何をすべきかを模索するところからスタートしました。」
お客さまが増え始めた城下町は、上昇ムードを帯びていった。そこでYusuke.Mは、観光協会と密に連携しながら町の動きに着目し、訪れた人々の声に耳を傾け、新しい切り口で次の宣伝を仕掛けていく。
「今はSNS全盛の時代。部内の若いメンバーを中心に、SNSやWebを使った宣伝に力を入れています。この手法により、若い世代の需要を喚起するとともに、中部エリア以外に在住する方々にも犬山の魅力を発信することができると考えています。」

一方、営業部のMotoki.Kは、電車での送客について力を発揮している。

「いかに名鉄電車を利用して犬山にお越しいただくか。そのために私たち営業部は、魅力的な商品やイベントを企画します。例えば、犬山城や城下町の店の割引券がついた切符や、レストランの食事とセットになった切符などを商品化してきました。また、町歩きも楽しめる沿線ハイキングなどのイベントも開催しています。犬山に出かけるきっかけを提供し魅力を体感していただくことで、お客さま数のアップにつなげたいのです。」

季節に応じてお客さまの数は変動する。しかし、名古屋鉄道では年間を通じて犬山向けの企画商品を販売している。

「企画内容を工夫しさらに充実させることで、どの季節にも犬山に足を運んでもらえる状態をつくり出すことが任務だと感じています。犬山城・有楽苑という2つの国宝など、コンテンツは豊富にある。しかし、ただ「ある」というだけの見世物のままでは、本物の魅力は伝わらない。お客さまに楽しんでもらいたいという『おもてなしのココロ』を備えていることが、犬山の最大の魅力であり、ポテンシャルを感じるところです。」

これからの課題、そして、やるべきこと。

2014年、犬山城の年間登閣者数は遂に50万人を達成。キャンペーン開始以来、堅調に右肩上がりをキープしている。結果だけを見ると成功と言えるかもしれないが、「まだまだ改善点の余地があります。」とMotoki.Kは話す。続けて「グループ会社をたくさん持つ名古屋鉄道ならではの販促を行うなどして、企画商品の魅力をもっともっと広めたい」と意気込んだ。

これを受けてYusuke.Mは、「中部エリアだけでなく、もっと広域、そして訪日客にも響く宣伝を展開することで、観光客数の全体の底上げを実現したい」と話し、さらに、「土日だけでなく、平日のお客さまをもっと増やせる企画について、観光協会側に提言する必要もあります」と続けた。

これからの課題、やるべきことを明確に話す二人の姿を見て、Masashi.Gは次のように語る。

「今日までの約10年、“『本物』を求めて、犬山へ”をコンセプトに掲げ、ここでしか味わえない本物の感動を伝えてきました。今後も引き続きこのコンセプトからぶれることなく、常に本物を追求していく姿勢を貫いていきたいです。」

2016年12月、「犬山祭」がユネスコ無形文化遺産に登録された。これでまたひとつ、犬山に『本物』が誕生したことになる。まだまだ伸びしろを秘めている犬山の観光コンテンツ。その素晴らしさを引き出し、国内、そして世界に広めていくために、これからも名古屋鉄道と犬山市は、がっちりと手を取り合っていく。

どのキャンペーンも思い出深いのですが、吉本芸人の方と一緒に企画を考え実施したことが、特に印象に残っています。芸人さんも犬山を盛り上げようと積極的にアイデアをくださり、それに対してこちらもアイデアをぶつける。良い企画を生むためにいつも建設的な話し合いが行われ、実に楽しかったですね。

着任前は、役員秘書を担当しており、一人で完結する仕事が比較的多かった。一方、犬山キャンペーンは地元の方々はじめ多くの方と関わり合い、巻き込み合いながら想いを形にしていく仕事であり、仕事への向き合い方も変わってきました。歴代の担当者以上に、胸襟を開いて様々な想いをぶつけ合える関係を築いていきたいです。

『犬山キャンペーン』を通じて名古屋鉄道の各担当者のみなさんと何度もお会いしている中で、共通しているのは、誰もが情熱を持たれた方ばかりだということ。本当に一生懸命になってくださるので、受け側である私たちも常に前向きに取り組むことができます。

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